たなどらの脳みそ

考察・小説を上げてる素人。

怨念

「これで、よし。」

灯りの灯らない部屋で外の雨音をBGMに神経を研ぎ澄ます。

6月。

荷物もなにもない無機質な部屋。

カーテンがついてないむき出しの窓。

ここは9階、カーテンなんか無くとも好き好んで見れる場所ではない。

辺りはがらんどう。

角部屋、隣人なし。

ロープでぐるぐる巻きにされ、椅子と一体化されている者。

口にはスカーフを噛まし声を出しづらくしてあるし、

頭から目にかけて黒いバンダナを巻き付け視界は多少遮ってある。

 

街頭の灯りを頼りに、私の横に並べられた数々の道具の中から、

一つを選び手に持つ。

この道具を持ちながら、

目の前の椅子で無防備に意識を飛ばしてる相手の元へ歩み寄る。

 

 

人間という者は実に厄介で、常に一時の感情で未来が変わるものだ。

その一時の感情が心の中に常に宿れば執着。

愛が蔓延すれば幸福。

憎悪が蔓延すれば怨念。

つくづく嫌になる。

人間の性、日本国民特有の性格に。

 

私は比較的すぐにマイナス思考になるタイプだ。

綺麗ごとは聞くだけで反吐が出る。

思考を変えようにも身について癖と化している脳みそには難しい。

感銘を受けたところで私の人生は変わらない。

恋をすれば女は、グロスでベタベタ、まるで売婦。

男は、整髪料でベタベタ、まるで乞食。

香水は嗅ぐだけで反吐が出る。

 いつだってセックス後みたいなベタベタ感がまとわりつく。

人間は気持ち悪い生き物だ。

 

今日もあちらこちらで怒鳴り、怒り顔、喧嘩を売る目。

平和ボケで自分が強いと思ってる。

隠しきれない本性が誰にだってある。

 

憎しみ。

どんなに憎んでも、人を殺せば私の負けだ。

でもここで被害者は黙って、法律に気づかれなければそいつは裁かれなくて。

そいつは過去、踏みにじった奴を忘れてのうのうと生きていく。

普通の人間として、当たり前を生きる。

自責の念すらなく、笑って笑って笑って。

私は嫌な記憶を蘇ることしかできなくて、蝕まれる。

そのまま年月が経ち、そいつが自分の過ちを思い出す事無く死ぬのが恐ろしかった。

それと同時に許せなかった。

いつしか私は怨念を抱え生きた。

 

小学校2年生、登下校。

「おい、無口女!!!!!!」

そいつが叫んだ。

私の事だとすぐに分かった。

反応すればまるで私がその呼び名を認めたようで振り向くことはできなかった。

今日の道徳の授業で、このお話を通して皆さんの感想を発表しよう

という綺麗事お披露目大会で私は恥ずかしくて何も発言できず。

皆もじもじしつつも答えていく中で、私はどうしても話せなったのだ。

一人だけ話せずクラスで浮いた存在となった途端、

さぞかしいい獲物を見つけたと言わんばかりにやんちゃな男軍団に目をつけられた。

それからというもの、授業中で返事だけでもすれば、

「あ、声あるんだ~」や「しゃべった!!!!」等冷やかされ。

そいつが給食当番では、カレーのルーをよそうフリをして服にかけられ。

ドッジボール大会では、私に対しては強いボールを投げつけ。

背の順でそいつが後ろにくれば、

体育の授業で前ならえの毎に手先を背中にわざとど突くようにされた。

他にもあるがもう思い出すのは阿保らしい。

高学年になると薄々感づいていたであろう教師は見て見ぬフリをした。

これが運悪く、高校になってもなお続いた。

さすがに高校の頃にはもう無いだろうと思ったが、

ただ一人固執するように絡んでくるそいつにもはや呆れさえした。

高校にあがれば堂々とされる事はなかったが、

地味に精神的に傷つけらるような嫌がらせになった。

 友達はいたが、自分が可哀そうアピールしている痛い子みたいで

相談するのはやめた。

幸い私の中で"死のう"という考えが無かった。

 

私はこいつを殺そうと思っていたからだ。

 

高校卒業後、私はすぐに就職し1年間貯金した。

貯金してある程度貯まった時に、このマンションを借りた。

人の原動力は凄いと思う。

得に怒りは。

人生棒に振っていいとさえ思う。

私はこれをするために産まれてきたんだとさえ思えた。

この人を殺せば私は自由になれるという絶対的過信も凄い。

でもこうしない限り、私はもう気が済まなくなっていた。

こいつが生きてるかも死んでるかも分からない状況で、

もしもこいつが平々凡々と全うな人間なフリをして生きているかもしれないという

この世界を嫌いで仕方がなかった。

同じ地球上に存在しているのが許せなかった。

私がただ被害者で終わるのが憎かった。

思い出すだけでこうなる自分が嫌いで仕方がなかったのだ。

苦しい。

 

すぐに殺すことなんて絶対にしない。

ぽっくり苦しみを知らずに逝かれるのは癪だから。

全ての血が絞り出されるまで。

鼓動がすべて潰れるまで。

皮膚が骨と同じくらい薄くなるまで。

嬲って、嬲って、嬲り殺してあげる。

呻き声はまるで鳥の鳴き声。

血の噴き出る音はまるで川のせせらぎ。

肉が削られる音はまるでクラシック。

 

嗚呼、人間は何て哀れで尊いのだろうか。

感情があるせいだからだろうか。

知能のせいだろうか。

 

さよならさんかく、またきてしかく。